貿易DX

AIで米国向けの取引を洗い出し、払った関税を回収する

IEEPA 関税の還付は、自動では戻りません。対象の申告を洗い出して請求するまでの手順と、日本の輸出者が確かめることです。

読了目安 約13分 米国の関税 / 還付 / AI

要点

  • IEEPA 関税の還付は自動では戻りません。請求できるのは、米国の輸入者か、その申告をした通関業者です。
  • いま受け付けているのは、清算の前か清算から80日以内の申告などです。清算が確定した申告の受付時期は決まっていません(2026年9月12日時点)。
  • 申告データから IEEPA 関税の行と清算日を抜き出せば、請求できる申告と期限はプログラムで出せます。

米国の連邦最高裁判所は2026年2月20日、IEEPA(国際緊急経済権限法)は大統領に関税を課す権限を与えていない、と判断しました。これを受けて、米国の税関(CBP)は、払われた IEEPA 関税の還付を始めています。

ただ、還付は自動では戻りません。請求できるのは、米国で輸入者として申告した者(IOR)か、その申告をした通関業者です。対象の申告番号を一覧にして、CBP のシステムから請求します。この記事では、その洗い出しを AI とプログラムでどう進めるか、日本の輸出者が何を確かめるかを説明します。

なお、IEEPA 関税がなくなったあとも、別の法律に基づく関税はかかっています。還付の対象は IEEPA 関税だけです。

これまでの経緯

  1. 米国の連邦最高裁判所が、IEEPA では関税を課せないと判断した

  2. CBP が、この日以降の輸入分から IEEPA 関税の徴収を止めた。同じ日から、通商法122条に基づく10%の追加関税が150日間かかった

  3. 国際貿易裁判所が、清算の前か後か、確定したかどうかを問わず、IEEPA 関税を除いて清算し直すよう命じた

  4. CBP が、CAPE と呼ぶ仕組みで還付の受付を始めた(第1段階)

  5. 政府が、国際貿易裁判所の命令に対して控訴した

  6. 還付の受付の第2段階が始まった

  7. 通商法301条に基づく措置が始まった。日本からの輸入品には、通常の税率と合わせて12.5%がかかる(通常の税率が12.5%以上の品目と、通商拡大法232条の対象品目は上乗せなし)

  8. 清算が確定した申告を扱う第3段階の開始が延期された。9月12日時点で、新しい日程は出ていない

図1 還付をめぐる主な出来事(2026年)

誰が請求し、誰にお金が戻るか

還付は、米国財務省から輸入者の米国の銀行口座に振り込まれます。受け取るには還付用の口座の登録が必要で、還付には利息が付きます。

日本の商社米国へ輸出する
米国の輸入者申告番号を一覧にして請求する。通関業者も請求できる
米国の税関(CBP)請求を受け付けて、中身を確かめる
米国財務省輸入者の米国の口座に、利息を付けて振り込む

日本の商社が関税の分を値引きで負担していた場合、戻ったお金の分け方は、輸入者との話し合いで決めます。

図2 還付を請求する人と、お金の流れ

日本の商社の立場は、取引の形によって分かれます。

請求は、米国の税関の電子申告システム(ACE)から行います。輸入者は ACE のアカウントを持ち、還付を受け取る米国の銀行口座を登録しておく必要があります。還付を輸入者以外の相手(通関業者など)で受け取る場合は、CBP の Form 4811 で受取先を指定します。還付は、請求が受け付けられてから60〜90日ほどで振り込まれる見込みです。

いま請求できる申告

CBP は、申告の状態によって受付の時期を分けています。ここで言う「清算」は、申告した関税の額を CBP が確定させる手続で、通常は輸入から314日以内に行われます。清算から90日以内なら CBP が自ら清算をやり直せるため、第1段階は清算から80日までの申告を対象にしています。

申告の状態還付の受付
清算の前、または清算から80日以内第1段階。2026年4月20日から受け付けている
後から金額を確定させる申告(reconciliation)の対象で、その申告をまだ出していないもの第2段階。2026年6月29日から受け付けている
清算が確定したもの第3段階。受付の時期は決まっていない
表1 申告の状態と、還付の受付(2026年9月12日時点)

清算が確定した申告の扱いは、国際貿易裁判所の命令に対する政府の控訴が続いていて、まだ決まっていません。また、戻し税(drawback)を請求中の申告や、異議申立て(protest)の手続中の申告などは、いまの受付の対象外です。

作業が止まる理由

対象になる申告は、輸入の件数だけあります。米国向けの輸入が月に30件あれば、1年で360件です。

申告ごとに、IEEPA 関税がいくら含まれているか、清算日はいつか、どの段階で請求できるかを確かめる必要があります。IEEPA 関税は、関税率表の第99類の番号で申告の行に載っています。日本からの輸入品では、この番号が途中で変わっています。

第99類の番号中身
9903.01.25基本の相互関税(10%)
9903.02.30日本向けの相互関税。2025年9月15日まで使われた番号
9903.02.73通常の税率と合わせて15%になるように上乗せする分。2025年8月7日にさかのぼって適用
9903.02.72通常の税率が15%以上の品目。上乗せがないので、この番号だけの行から還付は出ない
表2 日本からの輸入品にかかった IEEPA 関税の主な番号(番号の一覧は CBP の案内で最新のものを確かめる)

自動車と部品にかかっている 9903.94.40〜9903.94.43 は、IEEPA ではなく通商拡大法232条の番号で、還付の対象ではありません。番号を取り違えると、請求額が合わなくなります。

期限を試算する

清算日を入れると、第1段階の期限(清算日から80日)と、異議申立ての期限(清算日から180日)を計算します。基準日には、開いた日の日付が入ります。

清算日からの期限の試算

第1段階の期限(清算日から80日)2026年9月19日(あと6日)
異議申立ての期限(清算日から180日)2026年12月28日(あと106日)

暦の日数で足した目安です。実際の期限は、CBP の案内と通関業者で確かめます。入力した日付は、この画面の中だけで計算します。

作業の流れ

作業は6つの段階に分かれます。段階ごとに、AI にさせること、プログラムにさせること、人が決めることを分けておきます。

  1. 1

    申告データを集める

    米国子会社や取引先、通関業者に、申告データを頼む

    AI形式の違うファイルを読み取り、1つの表にそろえる

  2. 2

    IEEPA 関税の行を抜き出す

    プログラム第99類の番号で行を抜き出し、申告ごとに関税額を足す

    使う番号の一覧を、CBP の最新の案内で確かめる

  3. 3

    清算日から段階と期限を出す

    プログラム清算日に80日と180日を足し、請求できる段階と期限を出す

  4. 4

    請求する申告の一覧を作る

    プログラム請求する申告番号を、CBP の決まった形のファイルにする

    輸入者か通関業者が、CBP のシステムから請求する

  5. 5

    取引先と話す材料をそろえる

    AI契約書やメールから、関税の負担の取り決めを探して一覧にする

    精算のしかたを取引先と話し合う

  6. 6

    案内の変更を見張る

    AICBP の案内や裁判の動きを読み、自社の申告に関係する変更をまとめる

    請求の時期を決める

図3 作業の6段階と、AI・プログラム・人の分担

1. 申告データを集める

米国の税関の電子申告システム(ACE)には、申告の明細を出す ES-003 というレポートがあり、IEEPA 関税の行には印が付いています。まず、輸入者か通関業者に、このレポートを出してもらうよう頼みます。

取引先や通関業者によって、届くファイルの形式はばらばらです。列の名前や並びが違うファイルは、AI で読み取って1つの表にそろえます。そろえたあとは、申告ごとの関税額の合計が元のファイルと合うかを計算で確かめます。

2. IEEPA 関税の行を抜き出す

表2の番号をもとに、IEEPA 関税の行をプログラムで抜き出し、申告ごとに関税額を足します。番号の一覧は変わることがあるので、使う前に CBP の案内で確かめます。232条の番号は外します。

3. 清算日から段階と期限を出す

申告ごとの清算日から、請求できる段階と期限を計算します。清算から80日を過ぎると、第1段階の対象から外れます。異議申立ての期限は、清算から180日です。日付の足し算なので、プログラムで間違いなく出せます。

申告清算の状態IEEPA関税請求の段階期限の目安
A清算の前12,400ドル第1段階清算されたら、その日から80日以内
B2026年7月1日に清算8,300ドル第1段階第1段階は9月19日まで。異議申立ては12月28日まで
C2026年3月2日に清算5,100ドル第3段階受付の時期は決まっていない
表3 申告ごとの請求の段階と期限(申告と金額は例)

期限の近い申告から請求を急ぐよう、この表をもとに米国側と相談します。

4. 請求する申告の一覧を作る

請求は、申告番号だけを並べたファイルを、CBP のシステムに上げて行います。1つのファイルに入れられるのは9,999件までです。ファイルはプログラムで作り、請求は輸入者か通関業者が行います。

5. 取引先と話す材料をそろえる

関税の分を値引きで負担したか、別に上乗せして受け取ったかは、契約書やメール、見積の改定の記録に残っています。AI にこれらを読ませ、取引先ごと・時期ごとに取り決めを一覧にさせます。これと2・3で出した申告ごとの関税額を並べれば、話し合いの材料になります。

6. 案内の変更を見張る

還付の受付は段階を追って広がっていて、案内も更新されています。CBP の案内や裁判の動きを AI に読ませ、自社の申告に関係する変更だけをまとめさせます。請求の時期を決めるのは人です。

よくある誤解

IEEPA 関税が無効になったので、米国の追加関税はすべて戻る

戻るのは、IEEPA に基づいて払った関税だけです。通商拡大法232条の関税(自動車・部品など)や、2月24日以降にかかっている通商法122条・301条の関税は、この還付の対象ではありません。

待っていれば、自動で戻る

還付は、輸入者か通関業者が CAPE で請求して、はじめて手続が進みます。

日本の輸出者も、CAPE で請求できる

請求できるのは、米国の輸入者か、その申告をした通関業者です。自社が輸入者でない取引は、輸入者である取引先と話し合います。

申告を訂正(PSC)すれば、還付を受けられる

申告の訂正(PSC)で IEEPA 関税の還付を求めることは、禁止されています。

第99類の番号が付いた行なら、どれでも還付額が出る

日本からの輸入品で使われた 9903.02.72 は、通常の税率が15%以上の品目に使う番号で、上乗せがありません。この番号だけの行から、還付額は出ません。

AI に任せないこと

顧客名や金額が入ったデータを外部の AI サービスに入れる場合は、入力した内容が学習に使われない契約や設定になっているかを、先に確かめます。

社長が決めること

出典

この記事を書いた会社

Wing

大手日系・外資コンサルティングファームで10年以上、調達・貿易・経理・IT組織の実務に携わったメンバーが在籍しています。Anthropic社などのAI導入の認定資格を持つFDEが在籍しています。

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