要点
- 中国原産の輸入品は、RCEP の税率で申告すると関税が下がる品目があります。たとえば綿のニットのTシャツ類は、7.4%が4.6%になります(2026年4月1日版の実行関税率表)。
- 申告の誤りで多く払った関税は、輸入の許可の日から5年以内なら「更正の請求」で戻ります。RCEP を使い忘れた過去の分は、基本的に戻りません。
- 数千行の申告を確かめる作業は、AI の読み取りとプログラムの計算で短くできます。税率の数字と最終の判断は、税関の表と専門家で確かめます。
中国から輸入している品物は、RCEP の税率で申告すると関税が下がる場合があります。申告の誤りで多く払った関税は、輸入の許可から5年以内なら「更正の請求」で戻ります。こうした仕組みは、調べればすぐに分かります。
ただ、実際にやろうとすると、過去の輸入申告を1行ずつ確かめる作業で止まります。この記事では、その作業を AI とプログラムでどう短くするかを説明します。
架空の例:化学品と雑貨を輸入する商社
架空の例
A社は、化学品と雑貨を扱う専門商社です。1年の輸入は20億円で、そのうち8億円が中国からです。社長から「関税の見直しで、いくら戻り、いくら減るのか」と聞かれました。しかし輸入の担当は1人で、過去5年の申告の明細は1万5,000行あります。
この記事の手順で洗い直すと、次のことが分かりました。
- 中国原産で、国定・WTO協定税率のまま申告していた行が、約2,000行あった
- 差額の大きい上位10品目だけで、1年あたりの差額は約900万円だった
- 同じ品番が別の品目番号で申告されていたものが3品番、国内の配送費を課税価格に入れていた申告が12件あり、更正の請求を検討する候補になった
会社も数字も、説明のための例です。実在の会社の結果ではありません。
作業が止まる理由
輸入が月に50件あり、1件の申告に5欄あれば、明細は1年で3,000行になります。5年さかのぼれば1万5,000行です。
1行ごとに確かめるには、申告の明細、その品目の税率、仕入先の情報の3つを並べる必要があります。ところが、この3つは置き場所がばらばらです。
最初に作りたい表
目指すのは、品目ごとに1年あたりの差額を並べた表です。税率は実行関税率表(2026年4月1日版)の数字です。課税価格は説明のための例です。
| 品目(統計品目番号) | 年間の 課税価格 | WTO協定 税率 | RCEP (中国) | 1年あたりの差額 |
|---|---|---|---|---|
| 綿のニットのTシャツ類6109.10-020 | 1億円 | 7.4% | 4.6% | |
| 酢酸エチル2915.31-000 | 5,000万円 | 3.7% | 2.3% | |
| ポリエチレンの袋3923.21-000 | 3,000万円 | 3.9% | 1.8% |
差額の大きい順に並べれば、どの品目から、どの仕入先に原産地の証明を頼むかが決まります。
税関の表から読み出した税率
税率の表は、税関の実行関税率表をプログラムで読み込んで作ります。表は改定日ごとに、類ごとの Web ページで公開されています。1行には、基本・暫定・WTO協定・特恵・特別特恵の5つの税率と、経済連携協定ごとの22列の税率が並んでいます。
表2は、2026年4月1日版の第29類・第39類・第42類・第61類・第69類のページから、実際に読み出した行の一部です。
| 統計品目番号 | 品名(表の書き方のまま) | 基本 | WTO協定 | RCEP (中国) | RCEP (韓国) |
|---|---|---|---|---|---|
| 6109.10-020 | 綿製のもの その他のもの | 11.2% | 7.4% | 4.6% | 4.6% |
| 4202.92-000 | 外面がプラスチックシート製又は紡織用繊維製のもの | 10% | 8% | 5.7% | 空欄 |
| 3923.21-000 | エチレンの重合体製のもの | 5.8% | 3.9% | 1.8% | 1.8% |
| 2915.31-000 | 酢酸エチル | 5.6% | 3.7% | 2.3% | 2.3% |
| 6911.10-000 | 食卓用品及び台所用品 | 3.4% | 2.3% | 1% | 1% |
同じ品目でも、RCEP の税率は相手国によって違うことがあります。4202.92-000 のように、韓国の欄に税率が載っていない品目もあります。原産国ごとに正しい列を引くことが、プログラムにさせる理由の1つです。
差額を試算する
品目を選び、1年の課税価格を入れると、RCEP の税率との差額をその場で計算します。税率を自分で入れることもできます。
RCEP の税率との差額の試算
品目の税率は、実行関税率表(2026年4月1日版)の数字です。RCEP の税率は毎年4月1日に下がる品目があるため、実際の差は年ごとに変わります。原産地規則を満たすことが前提です。入力した数字は、この画面の中だけで計算します。
作業の流れ
作業は4つの段階に分かれます。段階ごとに、AI にさせること、プログラムにさせること、人が決めることを分けておきます。
-
1
申告の明細を表にする
AIPDF の明細を読み取る
プログラム課税価格×税率と関税額を突き合わせる
人合わなかった行を PDF で見直す
-
2
税率を当てる
プログラム税関の実行関税率表を読み込み、品目番号ごとに税率を並べる
税率は生成 AI に聞いて埋めない
-
3
差額を計算して並べる
プログラム中国原産で「WK」の行を抜き出し、差額の大きい順に並べる
-
4
原産地と分類を確かめる
AI仕入先への質問と依頼文、分類の理由を下書きする
人通関業者や税関の事前教示で確かめて決める
1. 申告の明細を表にする
まず、過去の輸入申告の明細をデータ(CSV など)で出してもらえるか、通関業者に聞きます。PDF しかない場合は、AI で読み取って表にします。
AI の読み取りは、ときどき数字を読み違えます。そこで、読み取ったあとに次の2つを計算で確かめます。端数を切り捨てた分のずれは許します。
- 課税価格に税率を掛けた額が、関税額と合っているか
- 欄ごとの関税額を足した額が、申告全体の関税額と合っているか
合わなかった行だけを、人が PDF で見直します。重さや数量に対して税がかかる品目(従量税)は、1つめの確かめ方が使えないので、別に見ます。
2. 税率を当てる
税率は、生成 AI に聞いて埋めてはいけません。AI は、もっともらしい数字を間違えて答えることがあります。表2のように、税率は税関の表をプログラムで読み込んで使います。
プログラムを書く作業も、いまは AI に手伝わせることができます。日本の RCEP の税率は毎年4月1日に下がるので、4月の改定のあとに読み込み直せば、税率の表はいつも最新になります。
3. 差額を計算して並べる
1の明細と2の税率を、品目番号でつなぎます。そのうえで、原産地が中国で、原産地証明書識別コードの先頭2桁が「WK」の行を抜き出します。「WK」は、国定・WTO協定税率で申告したことを表します。
抜き出した行の課税価格に税率の差を掛け、品目ごと・仕入先ごとに足して、大きい順に並べます。ここは決まった計算なので、AI の判断は入れません。
4. 原産地と分類を確かめる
差額の大きい品目から、RCEP の原産地規則を満たすかを確かめます。ここは AI に下書きをさせ、人が決めます。
- その品目の品目別規則を AI に読ませ、仕入先に聞くことを一覧にさせます。使っている材料、その品目番号、材料の原産地などです。
- 仕入先への依頼文を、中国語や英語で AI に下書きさせます。
日本では RCEP について、輸入者が自分で原産品申告書を作る方法(輸入者自己申告)も使えます。どの方法でも、その品目が原産地規則を満たすことを確かめる必要があります。
品目分類の見直しも、同じように進めます。同じ品番が、輸入のたびに違う品目番号で申告されていないかを、データで拾います。通関業者がインボイスの品目ごとに振った番号を、品番と並べてもらうと見つけられます。
拾った品番については、仕様書と分類のルール(関税率表の通則)を AI に照らさせ、どちらの番号が合っていそうか、理由を書かせます。決めるのは通関業者や税関の事前教示で、AI の答えをそのまま申告に使うことはしません。分類の考え方は「HSコードの調べ方・決め方」で詳しく書いています。
誤りが見つかったときの手続
洗い直しで見つかる誤りには、払いすぎと払い足りないの両方があります。関税を納める義務は、貨物を輸入する者にあります(関税法第6条)。通関業者に申告を任せていても、この点は変わりません。手続そのものは、通関業者に頼むことができます。
| 見つかったこと | 手続 | 期限 | 加算税・延滞税 | 出す書類 |
|---|---|---|---|---|
| 関税を多く払っていた | 更正の請求 | 輸入の許可の日から5年以内 | かからない | 関税更正請求書(税関様式C-1030) |
| 関税が足りなかった | 修正申告 | できるだけ早く | 調査の通知を受ける前なら、過少申告加算税はかからない。延滞税はかかる | 修正申告書 |
| 契約と違う品物を返送・廃棄する | 違約品等の戻し税 | 原則、輸入の許可の日から6か月以内に保税地域に入れる | — | 違約品等保税地域搬入届(税関様式T第1630号)など。輸出か廃棄かで書類が違う |
調査の通知を受けたあとに修正申告をすると、増えた税額の5%の過少申告加算税がかかります。更正を予知したあとや、税関から更正を受けた場合は10%です。延滞税の割合は年ごとに決まっていて、2026年は期間によって年2.8%または年9.1%です。更正の請求をするときは、誤りの根拠になる書類(仕入書、契約書、運賃の請求書など)を手元にそろえておきます。
よくある誤解
中国で作られた物なら、RCEP の税率で申告できる
RCEP の税率を使うには、品目ごとに決められた原産地規則を満たし、そのことを証明する必要があります。材料や作り方によっては、中国で作られていても原産品にならない場合があります。
あとから RCEP の税率に直せば、払いすぎた関税は戻る
RCEP 協定には輸入の後から特恵税率を求められる条文(第3.23条)がありますが、税関の説明では、日本はこの仕組みを使っていません。証明が間に合わないときは、輸入の許可の前に貨物を引き取る制度(BP)を使い、あとから証明を出します。
通関業者に任せているので、誤りは通関業者の責任になる
関税を納める義務は、貨物を輸入する者にあります。財務省によると、税関は令和6事務年度(2024年7月〜2025年6月)に3,609者の輸入者を事後調査し、そのうち2,690者(約75%)に申告漏れなどがありました。
AI に聞けば、税率はすぐ分かる
生成 AI は、税率のような細かい数字を間違えて答えることがあります。税率は、税関の表をプログラムで読み込んで使います。
5年分をすべて見直すのは、手間に見合わない
すべてを同じように見る必要はありません。差額の大きい順に並べれば、上位の品目から先に確かめられます。
AI に任せないこと
- 税率の数字を決めること。数字は必ず税関の表から引きます。
- 原産地規則を満たすかどうかの最終判断
- 品目分類の最終判断
- 申告や更正の請求を出すこと
顧客名や価格が入ったデータを外部の AI サービスに入れる場合は、入力した内容が学習に使われない契約や設定になっているかを、先に確かめます。
社長が決めること
- どこまでさかのぼるか。更正の請求ができるのは、輸入の許可の日から5年以内です。
- 申告の明細をデータで出してもらうよう、通関業者に頼むこと
- 差額の大きい品目について、仕入先に原産地の証明を頼むかどうか
出典
- 税関「実行関税率表(2026年4月1日版)」
- 財務省関税局・EPA原産地センター「RCEP協定 業務説明会Q&A解説」(2021年8月)
- 財務省関税局経済連携室「地域的な包括的経済連携(RCEP)協定【概要】」(2021年12月)
- 税関「1305 納税申告に誤りがあった場合(修正申告、更正の請求、過少申告加算税)」
- 税関「1604 違約品等の再輸出又は廃棄する場合の戻し税の手続」
- 税関「原産地証明書識別コード(NACCS)」(令和6年9月現在)
- 日本関税協会「関税法」第6条・第7条の15
- 財務省「令和6事務年度の関税等の申告に係る輸入事後調査の結果」(2025年11月12日)