貿易DX

AIで輸入申告を洗い直し、関税を減らす

過去の輸入申告から、RCEP の税率を使っていない輸入と、申告の誤りで多く払った関税を探す手順です。

読了目安 約11分 関税 / RCEP / 輸入申告 / AI

要点

  • 中国原産の輸入品は、RCEP の税率で申告すると関税が下がる品目があります。たとえば綿のニットのTシャツ類は、7.4%が4.6%になります(2026年4月1日版の実行関税率表)。
  • 申告の誤りで多く払った関税は、輸入の許可の日から5年以内なら「更正の請求」で戻ります。RCEP を使い忘れた過去の分は、基本的に戻りません。
  • 数千行の申告を確かめる作業は、AI の読み取りとプログラムの計算で短くできます。税率の数字と最終の判断は、税関の表と専門家で確かめます。

中国から輸入している品物は、RCEP の税率で申告すると関税が下がる場合があります。申告の誤りで多く払った関税は、輸入の許可から5年以内なら「更正の請求」で戻ります。こうした仕組みは、調べればすぐに分かります。

ただ、実際にやろうとすると、過去の輸入申告を1行ずつ確かめる作業で止まります。この記事では、その作業を AI とプログラムでどう短くするかを説明します。

架空の例:化学品と雑貨を輸入する商社

架空の例

A社は、化学品と雑貨を扱う専門商社です。1年の輸入は20億円で、そのうち8億円が中国からです。社長から「関税の見直しで、いくら戻り、いくら減るのか」と聞かれました。しかし輸入の担当は1人で、過去5年の申告の明細は1万5,000行あります。

この記事の手順で洗い直すと、次のことが分かりました。

  • 中国原産で、国定・WTO協定税率のまま申告していた行が、約2,000行あった
  • 差額の大きい上位10品目だけで、1年あたりの差額は約900万円だった
  • 同じ品番が別の品目番号で申告されていたものが3品番、国内の配送費を課税価格に入れていた申告が12件あり、更正の請求を検討する候補になった

会社も数字も、説明のための例です。実在の会社の結果ではありません。

作業が止まる理由

輸入が月に50件あり、1件の申告に5欄あれば、明細は1年で3,000行になります。5年さかのぼれば1万5,000行です。

1行ごとに確かめるには、申告の明細、その品目の税率、仕入先の情報の3つを並べる必要があります。ところが、この3つは置き場所がばらばらです。

通関業者から届く PDF輸入申告の明細品目番号・原産地・課税価格・関税額
税関の Web ページ税率WTO協定税率・RCEP(中国)
メールや Excel仕入先の情報どこで、どんな材料から作っているか
品目番号でつなぐAI とプログラムで表にそろえる
差額の一覧品目ごとに、大きい順に並べる
図1 確かめるのに要る資料と、そのつなぎ方

最初に作りたい表

目指すのは、品目ごとに1年あたりの差額を並べた表です。税率は実行関税率表(2026年4月1日版)の数字です。課税価格は説明のための例です。

品目(統計品目番号)年間の
課税価格
WTO協定
税率
RCEP
(中国)
1年あたりの差額
綿のニットのTシャツ類6109.10-0201億円7.4%4.6%
280万円
酢酸エチル2915.31-0005,000万円3.7%2.3%
70万円
ポリエチレンの袋3923.21-0003,000万円3.9%1.8%
63万円
表1 品目ごとの1年あたりの差額(課税価格は例)

差額の大きい順に並べれば、どの品目から、どの仕入先に原産地の証明を頼むかが決まります。

税関の表から読み出した税率

税率の表は、税関の実行関税率表をプログラムで読み込んで作ります。表は改定日ごとに、類ごとの Web ページで公開されています。1行には、基本・暫定・WTO協定・特恵・特別特恵の5つの税率と、経済連携協定ごとの22列の税率が並んでいます。

表2は、2026年4月1日版の第29類・第39類・第42類・第61類・第69類のページから、実際に読み出した行の一部です。

統計品目番号品名(表の書き方のまま)基本WTO協定RCEP
(中国)
RCEP
(韓国)
6109.10-020綿製のもの その他のもの11.2%7.4%4.6%4.6%
4202.92-000外面がプラスチックシート製又は紡織用繊維製のもの10%8%5.7%空欄
3923.21-000エチレンの重合体製のもの5.8%3.9%1.8%1.8%
2915.31-000酢酸エチル5.6%3.7%2.3%2.3%
6911.10-000食卓用品及び台所用品3.4%2.3%1%1%
表2 実行関税率表(2026年4月1日版)から読み出した行の一部

同じ品目でも、RCEP の税率は相手国によって違うことがあります。4202.92-000 のように、韓国の欄に税率が載っていない品目もあります。原産国ごとに正しい列を引くことが、プログラムにさせる理由の1つです。

差額を試算する

品目を選び、1年の課税価格を入れると、RCEP の税率との差額をその場で計算します。税率を自分で入れることもできます。

RCEP の税率との差額の試算

1年あたりの差額280万円
5年間の差額(税率が変わらない場合)1,400万円

品目の税率は、実行関税率表(2026年4月1日版)の数字です。RCEP の税率は毎年4月1日に下がる品目があるため、実際の差は年ごとに変わります。原産地規則を満たすことが前提です。入力した数字は、この画面の中だけで計算します。

作業の流れ

作業は4つの段階に分かれます。段階ごとに、AI にさせること、プログラムにさせること、人が決めることを分けておきます。

  1. 1

    申告の明細を表にする

    AIPDF の明細を読み取る

    プログラム課税価格×税率と関税額を突き合わせる

    合わなかった行を PDF で見直す

  2. 2

    税率を当てる

    プログラム税関の実行関税率表を読み込み、品目番号ごとに税率を並べる

    税率は生成 AI に聞いて埋めない

  3. 3

    差額を計算して並べる

    プログラム中国原産で「WK」の行を抜き出し、差額の大きい順に並べる

  4. 4

    原産地と分類を確かめる

    AI仕入先への質問と依頼文、分類の理由を下書きする

    通関業者や税関の事前教示で確かめて決める

図2 作業の4段階と、AI・プログラム・人の分担

1. 申告の明細を表にする

まず、過去の輸入申告の明細をデータ(CSV など)で出してもらえるか、通関業者に聞きます。PDF しかない場合は、AI で読み取って表にします。

AI の読み取りは、ときどき数字を読み違えます。そこで、読み取ったあとに次の2つを計算で確かめます。端数を切り捨てた分のずれは許します。

合わなかった行だけを、人が PDF で見直します。重さや数量に対して税がかかる品目(従量税)は、1つめの確かめ方が使えないので、別に見ます。

2. 税率を当てる

税率は、生成 AI に聞いて埋めてはいけません。AI は、もっともらしい数字を間違えて答えることがあります。表2のように、税率は税関の表をプログラムで読み込んで使います。

プログラムを書く作業も、いまは AI に手伝わせることができます。日本の RCEP の税率は毎年4月1日に下がるので、4月の改定のあとに読み込み直せば、税率の表はいつも最新になります。

3. 差額を計算して並べる

1の明細と2の税率を、品目番号でつなぎます。そのうえで、原産地が中国で、原産地証明書識別コードの先頭2桁が「WK」の行を抜き出します。「WK」は、国定・WTO協定税率で申告したことを表します。

抜き出した行の課税価格に税率の差を掛け、品目ごと・仕入先ごとに足して、大きい順に並べます。ここは決まった計算なので、AI の判断は入れません。

4. 原産地と分類を確かめる

差額の大きい品目から、RCEP の原産地規則を満たすかを確かめます。ここは AI に下書きをさせ、人が決めます。

日本では RCEP について、輸入者が自分で原産品申告書を作る方法(輸入者自己申告)も使えます。どの方法でも、その品目が原産地規則を満たすことを確かめる必要があります。

品目分類の見直しも、同じように進めます。同じ品番が、輸入のたびに違う品目番号で申告されていないかを、データで拾います。通関業者がインボイスの品目ごとに振った番号を、品番と並べてもらうと見つけられます。

拾った品番については、仕様書と分類のルール(関税率表の通則)を AI に照らさせ、どちらの番号が合っていそうか、理由を書かせます。決めるのは通関業者や税関の事前教示で、AI の答えをそのまま申告に使うことはしません。分類の考え方は「HSコードの調べ方・決め方」で詳しく書いています。

誤りが見つかったときの手続

洗い直しで見つかる誤りには、払いすぎと払い足りないの両方があります。関税を納める義務は、貨物を輸入する者にあります(関税法第6条)。通関業者に申告を任せていても、この点は変わりません。手続そのものは、通関業者に頼むことができます。

見つかったこと手続期限加算税・延滞税出す書類
関税を多く払っていた更正の請求輸入の許可の日から5年以内かからない関税更正請求書(税関様式C-1030)
関税が足りなかった修正申告できるだけ早く調査の通知を受ける前なら、過少申告加算税はかからない。延滞税はかかる修正申告書
契約と違う品物を返送・廃棄する違約品等の戻し税原則、輸入の許可の日から6か月以内に保税地域に入れる違約品等保税地域搬入届(税関様式T第1630号)など。輸出か廃棄かで書類が違う
表3 誤りの向きと手続

調査の通知を受けたあとに修正申告をすると、増えた税額の5%の過少申告加算税がかかります。更正を予知したあとや、税関から更正を受けた場合は10%です。延滞税の割合は年ごとに決まっていて、2026年は期間によって年2.8%または年9.1%です。更正の請求をするときは、誤りの根拠になる書類(仕入書、契約書、運賃の請求書など)を手元にそろえておきます。

よくある誤解

中国で作られた物なら、RCEP の税率で申告できる

RCEP の税率を使うには、品目ごとに決められた原産地規則を満たし、そのことを証明する必要があります。材料や作り方によっては、中国で作られていても原産品にならない場合があります。

あとから RCEP の税率に直せば、払いすぎた関税は戻る

RCEP 協定には輸入の後から特恵税率を求められる条文(第3.23条)がありますが、税関の説明では、日本はこの仕組みを使っていません。証明が間に合わないときは、輸入の許可の前に貨物を引き取る制度(BP)を使い、あとから証明を出します。

通関業者に任せているので、誤りは通関業者の責任になる

関税を納める義務は、貨物を輸入する者にあります。財務省によると、税関は令和6事務年度(2024年7月〜2025年6月)に3,609者の輸入者を事後調査し、そのうち2,690者(約75%)に申告漏れなどがありました。

AI に聞けば、税率はすぐ分かる

生成 AI は、税率のような細かい数字を間違えて答えることがあります。税率は、税関の表をプログラムで読み込んで使います。

5年分をすべて見直すのは、手間に見合わない

すべてを同じように見る必要はありません。差額の大きい順に並べれば、上位の品目から先に確かめられます。

AI に任せないこと

顧客名や価格が入ったデータを外部の AI サービスに入れる場合は、入力した内容が学習に使われない契約や設定になっているかを、先に確かめます。

社長が決めること

出典

この記事を書いた会社

Wing

大手日系・外資コンサルティングファームで10年以上、調達・貿易・経理・IT組織の実務に携わったメンバーが在籍しています。Anthropic社などのAI導入の認定資格を持つFDEが在籍しています。

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