MAツールを入れても何も変わらなかった企業の共通点
「HubSpotを導入したが、6ヶ月後にはほとんど誰も使っていない」——B2Bマーケティングの現場でよく聞かれる声だ。MA(マーケティングオートメーション)ツールへの投資は決して安くない。にもかかわらず、導入後に成果を出せている企業は一部にとどまる。
失敗した企業が口をそろえて言うのは「ツールが複雑すぎた」「担当者がITリテラシーを持っていなかった」というものだ。しかし、本当の原因はそこではない。問題の根本は、MAを導入する前の「準備」が抜け落ちていたことにある。
MAは「マーケ施策の自動化ツール」だ。もともと存在しないマーケ施策を生み出す魔法ではない。自動化できるのは、すでに機能しているプロセスだけだ。ペルソナが曖昧で、コンテンツがなく、リードデータが整理されていない状態でMAを稼働させても、空のパイプラインが自動で回り続けるだけになる。
本稿では、MAツールを機能させるために必要な3つの前提条件と、段階的な導入ロードマップ、そして主要ツールの選定基準を解説する。
MAが機能するために必要な3つの前提条件
MAツールを「動くもの」にするには、以下の3つの基盤が整っている必要がある。この3本柱が揃って初めて、MAは投資対効果を生み出す。
図1:MAツールが機能するための3本柱(Wing作成)
1. ペルソナ・バイヤージャーニー設計
MAシナリオの出発点は、「誰が」「何に悩んでいて」「どのように意思決定するか」という問いだ。この定義がなければ、誰に何を送るかが決まらず、シナリオは設計不可能になる。
製造業や商社のB2Bにおけるバイヤーは、業界や企業規模によって異なる。購買部が決定権を持つ企業もあれば、IT部門が主導し経営層が最終承認するケースもある。「とりあえず代表メールに送っておく」という発想では、どれほど精緻なシナリオも意味をなさない。
B2Bの特殊性として見落とせないのが、「意思決定者」と「情報収集者」が異なるケースが多いことだ。現場の担当者がホワイトペーパーをダウンロードし、導入判断は部長・役員が行う。MAシナリオはこの構造を前提に設計されなければならない。ペルソナは1つではなく、役割ごとに複数設定することが基本だ。
2. コンテンツ資産の整備
MAの核心はシナリオ配信だ。シナリオを動かすには、各ステップで配信するコンテンツが実在しなければならない。「事例集がない」「導入ガイドがない」「比較資料がない」という状態のまま、MA設定を進めても空振りに終わる。
バイヤージャーニーは一般的に「認知 → 検討 → 比較 → 決定」の4フェーズに分けられる。各フェーズに適したコンテンツの例を整理すると以下のようになる。
図2:各フェーズで必要なコンテンツ(Wing作成)
コンテンツ資産がゼロの状態でMAツールを導入した場合、シナリオの各ステップに「配信するものがない」という事態が続く。結果として、最初のメール1通だけ設定して終わりになりがちだ。MA導入前にコンテンツ在庫を棚卸しし、不足しているフェーズのコンテンツを優先的に制作することが先決だ。
3. CRM・リードデータの整備
MAが機能するには、動かすべきリードデータが存在し、正確に管理されている必要がある。既存のCRMに「会社名と担当者名しか入っていない」「どこから来たリードか分からない」という状況では、スコアリングもセグメンテーションもできない。
最低限確認すべきデータ整備の項目は以下の通りだ。
図3:MA導入前のCRMデータ整備チェックリスト(Wing作成)
特に重要なのがMAとCRMの統合設定だ。MAでのリードの行動(メール開封・ページ閲覧・資料ダウンロード)がCRMに反映され、営業担当者がリアルタイムで把握できる状態になって初めて、マーケと営業の連携が生まれる。この双方向同期がなければ、MAは「マーケだけが使うツール」で終わる。
MA導入ロードマップ:4フェーズで進める
MAは一度に全てを構築しようとすると必ず失敗する。正しいアプローチは、基盤整備から段階的に進める4フェーズのロードマップだ。
1〜3ヶ月
1〜2ヶ月
1〜2ヶ月
継続
図4:MA導入4フェーズロードマップ(Wing作成)
多くの企業がPhase 0を飛ばしていきなりPhase 1(ツール導入)から始める。その結果、ツールを入れた後に「送るコンテンツがない」「誰をターゲットにすればいいか分からない」という状況に陥る。Phase 0は退屈に見えるが、最も重要な工程だ。
Phase 0の期間は企業規模や現在の整備状況によって異なるが、一般的には1〜3ヶ月を見込むべきだ。この期間を惜しんでツール導入を急ぐと、後に数倍のコストをかけてやり直すことになる。
MAツール3選と選定基準(HubSpot・Pardot・Marketo)
基盤整備の目処が立ったら、いよいよツール選定だ。製造業・商社向けB2Bマーケの観点から、代表的な3ツールを比較する。
CRM込みで手軽
深いCRM連携
柔軟性高・習熟コスト高
図5:主要MAツール3選の特徴比較(Wing作成)
ツール選定の基準は「機能の多さ」ではない。最も重要なのは「今のCRM環境」と「MAチームのリソース」の2点だ。Salesforceを既に使っているならPardotの連携コストは低い。一方、CRMが整備されておらずMAも初挑戦という場合は、HubSpotのオールインワン構成が現実的だ。
高機能なツールを選んでも、運用できる人材がいなければ宝の持ち腐れになる。特に製造業・商社では専任マーケ担当者が少ないケースが多い。小さく始めて実績を積み、段階的に拡張していく戦略が現実解だ。
データ基盤整備を自社でやるか、外部支援を使うか
ここまで読んで、「基盤整備だけで3〜6ヶ月もかかるのか」と感じた方もいるだろう。実際、その認識は正しい。ペルソナ定義には営業部門との対話が必要であり、CRMのデータクレンジングは既存業務の棚卸しを伴う。コンテンツ制作は短期間で大量には進まない。
自社のみで取り組む場合、最大のハードルは「誰がこの整備を主導するか」という問題だ。マーケ担当者が少ない企業では、日常業務をこなしながら基盤整備を推進するのは現実的に難しい。
外部のDXコンサルタントに支援を求めるメリットは3つある。第一に、ツールベンダーに依存しない中立的な視点でのツール選定が可能になる。第二に、業務プロセスとマーケ施策の整合性を取った設計ができる。第三に、期間を定めてプロジェクト化することで、社内推進力が生まれる。
Wing Consultingでは、MA導入を単体のツール導入プロジェクトとして捉えるのではなく、営業・マーケの業務設計と一体で進めるアプローチを取っている。「MAを入れたいが何から始めればいいか分からない」という段階から、基盤診断・設計・ツール選定・稼働支援まで一気通貫で対応する体制を持っている。
重要なのは、MAは「魔法のツール」ではなく「仕組みの自動化装置」だという認識だ。仕組みが先にあり、ツールはそれを加速させる手段に過ぎない。正しい順序で基盤を整えれば、MAはB2Bマーケの強力な武器になる。逆に順序を間違えれば、高額な月額費用だけが出続ける消耗戦になる。